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大藪春彦の小説は多数のハードボイルドなヒーローを生み出してきました。
もっとも有名なのは「伊達邦彦」だと思います。
「伊達邦彦」が最初に登場したのは「野獣死すべし」であり、大藪春彦の自伝的な部分も包含するヒーローでした。
「伊達邦彦」のような大藪春彦ならではのヒーローを追い続けていたら、いつの間にか、大藪春彦が創造した2人のレーサーの物語にはまっていました。
汚れた英雄:北野晶夫
汚れた英雄 第1巻(野望篇) (角川文庫 緑 362-29) image by Amazon
「汚れた英雄」は大藪春彦が創造したレーサーのヒーローに初めて接した作品です。
おそらく草刈正雄が主演した映画の影響ではないかと考えていますが、学生時代に全4巻を読み切ってしまいました。
今では記憶が薄れてしまっていますが、「MVアグスタ」というなじみの無いマシンに跨がるヒーローは、当時の私には想像しがたい感じがしました。
2輪レーサーのストーリーなので、ホンダでレースに参戦してくれたら、のめり込み方も違ったのではないかと思っています。
スポンサーを得るために男の武器を使う「北野晶夫」はレーサーという華やいだ職業に影を落としています。
しかし、そこが大藪作品らしさを醸しています。
2輪で栄光をつかみながらも、4輪のレースで命を落としてしまう最後に、ダーティーなヒーローの悲しさを感じてしまいました。
アスファルトの虎:高見沢優
アスファルトの虎(タイガー)〈PART14〉伝説への終曲(フィナーレ) (角川文庫) image by Amazon
「アスファルトの虎」はF1のトップを目指すヒーロー「高見沢優」を描いています。
「北野晶夫」をさらにタフにしたヒーローで、レーサー、ジゴロだけでなく、謀略活動まで請け負うスーパーヒーローです。
「高見沢優」のF1戦歴はアラン・プロストのそれを下敷きにしています。
1984年、ニキ・ラウダに0.5ポイント差でチャンピオンを持って行かれるところも同じです。
高見沢のF1ストーリーは1984年をメインにしているので、F1戦績だけを追っていくと、結末が見えてしまって面白くありません。
趣味の狩猟や裏の仕事、女性遍歴等をセットで「アスファルトの虎」の面白さが出てきます。
この小説は大藪作品としては最長のものとなっています。
大藪春彦のエッセンスを全て投入した傑作だけに、このストーリーにながく浸っていられる幸せを感じさせてくれます。
レーサーをヒーローとした大藪春彦の白眉と言える作品であることは間違いありません。
大藪春彦の小説群のなかで読まずにすませることはできないでしょう。
しかし、作品のエンディングはアラン・プロストの戦歴のまとめを読まされているような錯覚を覚えますので、この部分はどうにかして欲しかったと思っています。
まとめ
これ以外にも大藪作品の中にレーサーをヒーローとした小説は「戦いの肖像」等がありますが、「汚れた英雄」と「アスファルトの虎」の2作品がテッパンでしょう。
これらの小説はとてつもなく面白いことは間違いありませんが、どちらもエンディングが面白くありません。
記録のみを残して終了するスタイルは、これらの作品を味気ないものにしています。
しかし、それすらも大藪作品らしさといえなくもありません。
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